靴磨き名人の源さんに言われた"あの"ひと言。
靴磨き名人の源さんに言われた"あの"ひと言が、今でも僕の心に焼きついています。
源さんこと井上源太郎さん(以下、源さん)は、キャピトル東急ホテルで店を構えて40年。(現在、お店はホテルオークラへ移転されているとのこと。あと、ベルルッティのカラリストも務めていらっしゃるようです)
源さんは、日本の政財界をはじめ、世界の著名人(今は亡きオードリー・ヘップバーンなども!)からも指名されるほどの腕前を持つ靴磨き職人として、とても有名な方です。
僕がこの業界に転職を決めた頃のことです。
その当時はまだ名古屋に住んでいましたが、たまたま別件で東京にでる機会があり、「何とかして源さんに自分が愛用している靴を磨いてもらいたい!」と思い立ち、時間を作ってキャピトル東急ホテルに向かいました。
ホテルの地下に下りると小さなスペースに源さんのお店がありました。
僕がドキドキしながらお店を覗くと、朴訥とした感じの男性がやや迷惑そうな表情でこちらを振り向きました。
そう、その方が源さんでした。
源さんは僕の靴を見るなり、
「あなたの靴は綺麗に手入れされてるから磨く必要はないなぁ・・・」
とひと言。
僕は慌てて、
「い、いや、井上さんに磨いていただきたくて、今日、な、名古屋から来ました!ぜひ磨いてください!」
と伝えると、それならしょうがないなぁといった表情をして、源さんは静かに僕の靴を磨き始めました。
僕は源さんに靴を磨いてもらいながら、自分がこれから靴の世界で頑張っていきたいというその時の思いを打ち明けました。
すると、黙って聞いていた源さんは、ひと言、僕にこう言いました。
「いいかい、本物から学ばなきゃだめだよ」
・・・それ以来、源さんのそのひと言が僕の心の奥底に深く刻まれつづけています。
本物とは何か。
本物の商品とは。
本物のサービスとは。
それは僕がこの仕事をしていく上での、永遠のテーマなのかもしれません。