【書評】腰痛学校 〜 ヒトは脳で腰の痛みを感じている?! 〜
今回は、「人生を変える幸せの腰痛学校」という本をご紹介します。
本書は、世界最先端の腰痛治療の現場で行われ、実際に驚くべき成果を上げている「認知行動療法」というプログラムに基づいて描かれた物語です。
つまり、腰痛の改善を目的として書かれた小説で、腰痛治療の専門書でもある特殊な一冊と言えます。
正直、人生を変える、とか、幸せの、といったフワッとした言葉が題名に入っていたので、最初は半人半疑でしたが、読んでみたらとても学びが多く、ぜひこのコラムでもご紹介したいと思いました。
著者は、鍼灸師の伊藤かよこさん。
自身の腰痛ヘルニアの経験がきっかけで鍼灸師の免許を取得し、現在、腰痛をはじめさまざまな不調に悩む多くの患者さんの治療にあたっています。
<こんな方におすすめします>
本書は、
・腰痛など慢性的な身体の痛みや痺れで苦しんでいる
・認知行動療法について興味がある
といった方におすすめします。
<認知行動療法プログラムとは?>
オーストラリアのシドニー大学で行われている、慢性の腰痛に関する世界最先端の治療プログラム(ADAPTプログラム)のことで、腰痛に対する「考え」や「思い」をあらため、日々の「行動」を変えることにフォーカスし、腰や身体の直接的な治療はしないそうです。
つまり、「腰」そのものではなく、腰痛に対する「思考」や「信念」にアプローチする新しい治療法なんですね。
<ストーリー>
(この本が書かれた2016年の時点で)現在、最も科学的根拠の信頼度が高い腰痛の治療法は、その「認知行動療法」と「運動」だそうで、この小説の中では、認知行動療法をもとにした、整形外科医の佐野先生による8週にわたるプログラムに、主人公の神崎さんたち6人が参加して、腰痛の悩みを克服していく、というストーリーが展開されていきます。
<面白かったところ3つ>
①人間は脳で痛みを感じている
突然ですが、「ペインマトリックス」ってご存知ですか?
ペインマトリックスとは、痛みを感じるときに、活動が盛んになる脳の複数の領域のことです。
痛みを感じる仕組みは、この「ペインマトリックス」が関係していて、「言葉」「画像」「イメージ」「記憶」「予想」「共感」など、いろいろなことに反応します。
例えば「腰痛」という文字を見たり、聞いたり、口にしたりすることや、「腰が悪い」という「思い」や「考え」によって腰に注意が向き、脳内のペインマトリックスが興奮して、痛みを感じやすくなるわけですね。
また、腰痛を治そうとすればするほど、腰は痛み、それがストレスになり、「嫌な気分」になってしまいがち。
この「嫌な気分」「ネガティブな感情」が、身体に本来備わっている「痛みを鎮める働き」を悪くして、ますます治りにくくなるということです。
ではどうすればいいのでしょうか?
本書では、安心、リラックス、楽しい、わくわく、笑い、感謝、といったような、いい気分になる練習をすることを勧めています。
身体が慢性的に痛いとなかなか難しいかもしれませんが、自分の身体に対して「いつもがんばってくれてありがとう」と感謝したり、意識的にリラックスできる時間を作ったりすることが、ペインマトリックスの抑制につながるわけですね。
②原因を探すのではなく、「今」なにができるか
佐野先生が物語の中で、
「治したい、治りたいという執着を手放すと結果的に手に入る」
と生徒たちに伝えました。
一瞬どういうこと?って思いますよね。
先ほどの話と少しかぶりますが、
これはつまり、腰痛を「治さなければいけないもの」として原因を探り、ネガティブな感情をもって注意や関心を向け続けると、かえって治りにくくなってしまう、ということです。
腰痛以外のことに、ポジティブな感情を持って関心を向けること、つまり「今、この瞬間」自分は何ができるのか、何がしたいのか、その思考と行動を、自分の意思で選択することが大事なことだということですね。
③がんばらずに、毎日できる範囲で歩くこと
佐野先生のプログラムでは、毎回初めに必ず「あること」からスタートしていました。
それは、「歩くこと」です。
そこで言われていたことは、
・毎日できる範囲で歩きましょう。
・ただし、いい気分で歩ける範囲にとどめ、決して頑張らないこと。
・腰痛を治すことを目的に身体を動かしたり、歩いたりしないこと。
といったことでした。
これはとても重要なポイントだと思いました。
健康ガイドラインの代表的な基準としてWHO(世界保健機関)の「健康のためには軽い有酸素運動を週に150〜300分ぐらい行いましょう」というものがあります。
個人差はありますが、これを歩数で換算すると1日約2000〜4500歩ぐらいです。
よく1日1万歩を目指しましょう、と言われたりしますが、人によってはちょっとハードルが高いんですよね。
まずは「1日2000歩ぐらいから、いい気分で歩くこと」を目標にしてみてくださいね。
<さいごに>
もしあなたが腰痛など身体の痛みで悩まれているとしたら、登場人物と一緒にプログラムに参加している感覚で、この小説を読み進めていくことができると思います。
8週にわたるそのプログラムが物語形式で、とてもわかりやすく紹介されているところが、本書の特長だと思いました。
実際には、この本の登場人物のようにうまく治らないケースももちろんあるでしょうし、病院で外科的な治療が必要なケースも多々あるかと思います。
とにかく、僕がこの本を通じて痛感したことは、「自分の大切な身体は自分で守る」という意識を持つことの重要性ですね。
主人公の神崎さんのように、自分で知識と情報を集め、選択して、決断して、行動すること。一歩足を前に出すこと。
その結果、自分の心と体に対して自信がつき、次へのステップにつながるのだと思います。
その最初のステップ、「知識、情報を集めること」の一つとして、ぜひあなたに本書をおすすめします。
ということで、今回の話は以上です。